ナチュラルホルモンとは
古くから女性ホルモン補充療法に用いられてきたプレマリンやプロベラは、からだにもともと備わっているホルモンとは化学構造式の異なる合成ホルモンです。
これに対し、からだにもともと備わっているホルモンと全く同じ化学構造式のホルモンを、バイオアイデンティカルホルモンといいます。一般には、ナチュラルホルモンとよばれることが多いようですが、ナチュラルという意味は、原料が自然のものという意味ではなく、からだにとってナチュラルなホルモンという意味です。
ナチュラルホルモンは、もともとからだに存在している物質ですので、合成ホルモンと比較すると、副作用の危険性が低いと考えられます。更年期障害で使用されるナチュラルホルモンには、メラトニン、DHEA、テストステロン、エストロゲン、プロゲステロンなどがあります。女性ホルモン、男性ホルモンは、大豆またはヤムイモが原料になっています。
これらのナチュラルホルモンは、国内では販売されていませんので、外国から輸入することになりますが、自分でインターネットなどを利用して購入して使用することは絶対にお勧めできません。
本当に表示通りの成分が含まれているのか、不純物が含まれてないのかなど、保証ができないからです。
また、いくらナチュラルなホルモンでも、投与量、投与方法を間違えれば、副作用が出るのは当然です。
ナチュラルホルモンは医師の処方により使用できる薬にあたります。
必ず、ナチュラルホルモンの知識のある医療機関で処方してもらうようにしてください。
ナチュラルホルモン補充療法の特徴と種類
ナチュラルホルモン補充療法の特徴は、次の3点にあります。
- バイオアイデンティカルホルモンを用いる
からだにもともとあるホルモンと同じ化学成分のホルモンを用いる
- 総合ホルモン補充療法
ナチュラルホルモンを単体として用いるのではなく、足りないものをすべて補う。
- オプティマルレンジを目指す
20~30歳代の理想的なホルモン量を目指して補充する。
実際に用いられるナチュラルホルモンの種類とその効果を次に示します。
メラトニン |
自然な睡眠を促す、抗酸化作用、免疫力を高める |
DHEA |
活力を高める、動脈硬化の予防、骨粗しょう症の予防、抗酸化作用、免疫力を高める |
エストロゲン |
更年期症状の改善、骨粗しょう症の予防、動脈硬化の予防、 認知症の予防、大腸がんの予防 |
プロゲステロン |
エストロゲン優勢の症状をおさえる、乳がん・子宮内膜がんの予防、骨粗しょう症の予防 |
テストステロン |
活力を高めてうつ症状を改善する、集中力を高める、性欲を高める、脂肪を減らして筋肉を増やす、肌を若々しく保つ、 動脈硬化の予防、骨粗しょう症の予防、認知症の予防 |
甲状腺ホルモン |
活力を高めてうつ症状を改善する、集中力を高める、疲労感の改善、冷えの改善、体重を減らす |
プログネノロン |
記憶力の改善、疲労感の改善 |
女性更年期障害に対するナチュラルホルモン補充療法の特徴
女性更年期障害に対するホルモン補充療法では、エストロゲンとプロゲステロンが用いられます。エストロゲンは、からだの中では、エストロン(E1)、エストラジオール(E2)、エストリオール(E3)の3種類の形で存在しています。
一般に保険診療で行われているホルモン補充療法では、エストロゲン製剤としては、合成エストロゲン、エストラジオール、エストリオールを、合成プロゲステロン製剤(プロゲスチン)としては、酢酸メドロキシプロゲステロン、ジドロゲステロンを用います。
合成プロゲステロンはプロゲステロンと称されることが多いようですが、プロゲステロンとは構造式が異なる、似て非なる化学物質です。
合成プロゲステロンは、乳がんの原因になります。
女性更年期障害に用いるナチュラルホルモン補充療法の特徴は、次の3点です。
- エストロゲンの投与方法
エストラジオールまたはエストリオール単体ではなく、バイオアイデンティカルなバイエストロゲン(エストラジオール+エストリオール)、またはトリエストロゲン(エストロン+エストラジオール+エストリオール)を投与します。
- プロゲステロンの投与方法
合成プロゲステロンではなく、ナチュラルなプロゲステロンを用います。
- 併用するホルモン
女性ホルモンだけでなく、DHEA、テストステロン、メラトニンなども同時に投与します。
女性更年期障害に対してナチュラルホルモンを用いるメリット
ホルモン補充療法の副作用で危惧されることは、がんの発生です。
エストロゲンを単独で補充すると、子宮内膜がんのリスクが増えるため、プロゲステロンを併用する必要があります。しかし、合成プロゲステロンである酢酸メドロキシプロゲステロン(MPA)(プロベラ、プロゲストン、ヒスロンなど)を併用すると、乳がんのリスクが増えるということが指摘されています。
フランスで行われた80377人を対象とした臨床研究により、天然のプロゲステロンを併用した場合は、乳がんのリスクは増加しないことが明らかにされました。乳がんのリスクが増加するのは、プロゲステロンとは化学構造の異なる合成のプロゲステロン(プロゲステロンに似たもの)を併用するためで、天然の(バイオアイデンティカルな)プロゲステロンを使用した場合は、むしろ乳がんのリスクを減少させると考えられます。
天然のプロゲステロンには、エストロゲンと同じように、骨粗しょう症を予防する働きがあります。しかし、合成のプロゲステロンでは、骨粗しょう症に対する予防効果は認められません。天然のエストロゲンと天然のプロゲステロンを併用すると、骨粗しょう症の予防効果が増強します。
ナチュラルホルモン補充療法と保険診療でのホルモン補充療法との比較
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保険診療でのホルモン補充療法 |
ナチュラルホルモン補充療法 |
エストロゲン |
合成エストロゲン or エストラジオール(E2)単独 or エストリオール(E3)単独 |
バイエストロゲン(E2+E3) or トリエストロゲン(E1+E2+E3) |
プロゲステロン |
酢酸メドロキシプロゲステロン、ジドロゲステロン |
天然のプロゲステロン |
他のホルモンの併用 |
女性用テストステロン |
DHEA、メラトニン、女性用テストステロン 甲状腺ホルモン、プレグネノロン |
症状の改善 |
合成プロゲステロンはエストロゲンの効果を弱め症状を悪化させることがある |
天然のプロゲステロンはエストロゲンと相乗的に働き、気分を落ち着かせる |
乳がん |
合成プロゲステロンは乳がんを増やす |
天然のプロゲステロンは乳がんを減少させる |
骨粗しょう症 |
合成プロゲステロンに骨粗しょう症の予防効果はない |
天然のプロゲステロンは骨粗しょう症を予防する |
心疾患 |
合成プロゲステロンは心疾患のリスクを増やす |
天然のプロゲステロンは心疾患のリスクを減らす |
血液凝固作用 |
合成エストロゲンには血栓症の危険がある |
天然のエストロゲンでは血栓症の危険は低い |
子宮摘出後 |
子宮がないと子宮内膜がんは発生しないので合成プロゲステロンの併用は必要ない |
プロゲステロンはエストロゲンの働きを助けるので併用が必要である |